老齢雑感

ーあのとき僕はこう思ってたんだー

読み残しも、読んでおこう

  本を減らすために

 

1)本田靖春『誘拐』筑摩文庫を読む

 

 本書は、元、1977年6月~8月に、

 月刊誌『文藝春秋』に連載され

 1977年9月に文藝春秋で単行本化、

 1981年筑摩書房から文庫化された。

 

 数々の賞を受賞した、昭和の

 ノンフィクションの名作の一つ。

 

 「本は2度読め!」

 の実践ではなく、

 本書は、何十年と

 積ん読だった一冊。

 今ごろかよ! です。

 

 

2)「誘拐」というのは

 

 昭和38年(1963年)3月31日に起きた

 「吉展(よしのぶ)ちゃん誘拐事件」

 のこと。

 

 その時4歳だった吉展ちゃんが

 誘拐され、亡くなった凄惨な事件。

 台東区入谷で起きました。

 

 ほっこりは1957年生まれで、

 事件発生の年は年度で6歳。

 小学校に上がる前の年。

 

 おそらく、

 今60代、70代、80代の方々は、

 みなおなじような感じかと

 思うのですが、

 「よしのぶちゃん」事件は、

 詳しくないとしても強い印象

 残してるんじゃないかと。

 

 

3)2年がかりだった

 

 今回、読んでみてわかったのですが

 この事件は、犯人確定までに

 2年を費やしていたのですね。

 

 その間、テレビなどで

 犯人の身代金要求の音声などが

 繰り返し流されていたようです。

 

 社会的な反響も

 相当大きかったようで

 それが年端のいかない

 田舎のガキにも

 強烈な印象を殘すことに

 なったようです。

 (wikiに当時の世の中の騒ぎ具合

  盛りだくさんです)

 

 

4)あれから45年(作品上梓の方から)

 

 事件のことを今さら云々しても

 45年遅いよ!

 ってな話ではあります。

 

 犯人の自意識の問題とか

 狡賢い方向につい頭が回ることとか

 被害者一家の誠実そうな人柄とか、

 当時の警察官の目の前の動きへの

 鈍重さとか

 

 本書を読んで

 書きたいことは山ほどあるのですが

 45年遅いよ! です

  

 ただ、吉展ちゃんのご冥福だけは

 お祈りしておきたいと思います。

 

 

5)不易流行と言うんでしょうか

 

 あれから45年。

 時代はすっかり様変りですが

 

 その変転の底のところで

 本書が指摘したかったであろう

 社会的な問題を、

 ちゃんとアップデートしながら

 我々は時間を積み上げて来たのかと

 読みながら気になりました。

 

 

6)誹謗中傷問題

 

 なにせ、最近、

 話題になっている

 ネットでの誹謗中傷問題に

 似たようなことが

 

 1960年代、昭和30、40年代にも

 ちゃんとあったのですね。

 当たり前だよ!

 なのかもしれませんが。

 

 もちろん、当時

 ネットなんか無かったので

 手紙とか、電話とか、

 その時代のツールを駆使して、

 熱心・執拗に行われたんですね。

 

  「この種の脅迫者は、

   自分を特定されない空間に置き

   受動的な立場をしか選べない

   相手を、

   思いのままにいたぶる。

   闇の中の存在である彼は、

   そういうとき、

   普段は決してあらわさない

   奥深くひそめた残忍さを、

   海中の発光虫のように、

   隠微に解放させているに

   違いない。」(204p)

 

 最近の事象の説明文としても

 十分使えそうでしょう。

 

 ただ、最近の「相手」は

 受動的なばかりでは、

 なくなってきています。

 その辺が、ご時世ですね。

  

 

7)蛇足ながら

 

 吉展ちゃんの祖母の

 「すぎ」さんが

 なかなかに利発な感じです

 

 戦後の焼け野が原の風景の中で

 すぎさんが思ったのは、

 

  「それにしても金庫っていうのは

   随分あるものだわねえ」

 

 ということだったそうです。

 

 木造の家屋は焼尽しても

 金庫は燃えずにごろごろ

 残っていたそうです。

 

 2011年の東北大震災の時に

 テレビ見て同じ感じ持ったこと

 思い出しました。

 

 それから、

 

 警察が、自分たちの捜査ミスを、

 被害者一家に転嫁するような

 物言いをしたために、

 いつもは穏やかな吉展ちゃんの

 お父さんが、さすがに、

 キレそうになった時に、

 すぎさんが言うんですね

 

  「上になってたら仕様がないのね

   学問で、試験でなるんだから」

 

 『バカの壁』の養老健司先生が、

 本の中で、

 

  「むかしの人たちは、

   学問すると人はバカになるから

   そうならないよう注意しなって

   言ったもんだった」

 

 みたいなことを書いてましたが

 その好個の例、見つけました。

 

 本田靖春も、すぎさんの凛々しさ

 みたいなことを、きっと、感じて、

 エピソードとして、書き記して

 おきたかったのでしょうね。

               合掌