老齢雑感

ーあのとき僕はこう思ってたんだー

豚の福祉・・人の意識の移り変り

 

 アメリカじゃ動物愛護精神は、飼育される家畜のストレスを、福祉的視点で見つめるまでになってきているそうです。

 

1)「豚の福祉」についての時事通信の配信記事(全文)

 「豚の福祉」に波紋 肉販売規制に生産者悲鳴 米 

  (2024/3/23(土) 20:21配 JIJI.COM 時事通信社

【ニューヨーク時事】

 ストレスの少ない環境で家畜を育てる「アニマルウェルフェア(動物福祉)」を巡り、米西部カリフォルニア州の法規制が畜産業界に波紋を広げている。

 飼育方法の基準を満たさない豚肉製品の販売を州内で禁じることが柱で、対応には畜舎の改造費などがかさむため、生産者は悲鳴を上げている。  

 同州が提案した規制法は、2018年の住民投票で承認された。反発した生産者団体が訴訟を起こしたが、連邦最高裁が23年に規制法を支持する判断を下したことを受け、今年1月に完全施行された。  

 規制では生産者に対し、妊娠中の母豚が自由に動き回れるよう1頭当たり少なくとも2.2平方メートルの面積確保を義務付けた

 カリフォルニア州内での豚肉やベーコンの販売には、第三者機関から認証を得て基準を順守している証明が必要となる。全米で人口が最も多い同州は消費する豚肉の9割を州外に依存しているため、サプライチェーン(供給網)全体に大きな影響が及ぶ。  

 全米豚肉生産者協議会(NPPC)の推計によると、基準を順守した場合、1頭当たりの投資コストは2割増の最大4000ドル(約60万円)となる。

 NPPCは「小規模生産者は廃業に追い込まれる」と非難。豚肉製品によっては価格が4割上昇するとの当局試算もある。  

 ビルサック農務長官は先月の下院公聴会で、他州もカリフォルニア州の規制に追随する可能性があることを念頭に、「生産者に深刻な懸念を与える」と危機感を表明。連邦議会が規制の拡大防止を図る立法措置を講じる必要があるとの考えを示した。 

                          (引用以上。下線は追加)

 

2)もはやペットではなく家族

 最近、夕方のニュース番組など(料理する横目で)見ていても、視聴者から届く犬や猫の映像は、番組構成の必須要件になっているんじゃないかと思うほど、ほとんど毎日目にするようになっています。

 かつて『天才!志村どうぶつ園』とかが始まった(2004年)頃は、まだこれほどじゃなかったような気がします(正確なところはわかりませえんが)。最近犬、猫は、もはやペットというようりも家族の一員として接せられている状況だなと、犬、猫飼っていなくてもテレビの映像などみていてそう感じます。

 そういう感覚は「豚の福祉」感性ともう紙一重でせう。

 カリフォルニア州の動きが、アメリカ全土に広まるかどうかは分かりませんが、想像するに、食肉業界とか家畜業界に関係の薄い人たちには、共感は広がり易そうな気がします。そして、その感性は、同じようなかたちで日本にも伝染しそうな気がします。

 

3)福祉という認識レベルへの踏み込み

 ♪ ドナ・ドナ・ドナ ♪ の歌のような、弱い立場の動物への同情とかは昔からあったわけですが、だからといって、そこに福祉という"人権"意識に近いような、「動物がその生を健全に全するための権利意識」のようなものは、誰も思いつかなかったわけです。でも、その意識に目覚めた人が出て来たらしいのが、時代なんだと思います。

 最近、TVer では春の端境期の過去ドラマ・オン・パレード。

 で、「花咲舞がだまっていない」というのを見ました。2014年度の6話で、上司からセクハラを受けた女子行員が反撃を試みるも、セクハラは立証が難しいということで、ほぼ泣き寝入りで終わりになるかと思われたところに・・・。

 みたいな内容だったんですが、今観ると、その状況なら、裁判に訴えるという展開だって十分ありうるんだけど、2014年当時(10年前)は、その発想がなかった(あったとしても極めてハードルが高く、世間相場からはまだ非リアルだった)んだなと、ひしひし感じさせられ、この10年の間に、まあ、ここ数年が特にそうかもしれませんが、その辺の意識変革が、劇的に進んでるんだなあという気がするわけであります。

 

4)「ふてほど」ブーム

 2024年1~3月期のドラマとしてTBSの『不適切にもほどがある』がすごく話題になっています。

 2000年代から始まったコンプライアンス(法令順守)意識の社会への浸透がもたらす悲喜劇を、相対化して描くことのできた初のドラマとして称賛を受けているのかと思います。

 コンプライアンス意識は大事なことなんだけど、反面で人の意識を硬直化させたり、軋轢を生んだりしているという認識もまた、社会に広まっているというわけです。

 コンプライアンスということばの浸透状況については、ネットにある、G-Serch編集部さんのコンプライアンス意識の高まりはいつから?――新聞記事件数からひも解く」2019年7月4日掲載 をみました。

 1997年頃の証券会社の損失隠し事件などのころからニュース記事に登場し、2002年の「牛肉産地偽装」問題で記事数が年間千件を越え、2006年、2007年頃の日本版SOX法(※「金融商品取引法」の一部を言うらしいです<Wiki>)の施行前後に飛躍的に伸びたそうです。

 ほっこりが勤めていた小企業でも2005年にプライバシーマーク、2007年に環境保護のISO14000系を全社挙げて取得したりしましたから、あの頃から、そういう、意識的にも、無意識的にも、法令違反や配慮不足、社会的不正などを、互いに質しあって行こうというような社会機運が醸成されてきていたのですね(そういう認証取得が取引の前提とされるようにもなっていましたから)。基本的には評価、称賛されるべき社会の側面だったんですよね。

 <これは、余談ですが、あのころのISO取得ブームは、商業のグローバル化の中で、それを取得しておかないと、西欧諸国が日本排除の言い訳に使うからで、ISOの有無を振りかざす西欧諸国では、てんで取得なんか進んでいない、みたいな話がよく行われておりました。ほんとかどうか定かではありませんが、そういうことを言っていたなあと思い出したので。>

 

5)分断派には好餌?

 「豚の福祉」については、まだ、人それぞれの立場でさまざまな見方がある段階かと思います。今後どういう方向に進むのでせうか。日本における「ふてほど」ブームもそのあとどういう方向に進むのかです。

 ただ、気になるのは、こういう"意見の異なる事象の発生"が、容易に人々の分断に結びついていく傾向の出て来たことです。

 まあ、きっと、トランプさんなんかは「豚の福祉」を、トランプさんお得意の敵味方の峻別材料に使うでせう。

 

 近代が獲得した「基本的人権」の尊重は、今までそれなりに重みを持ち、為政者たちの振る舞いを抑制してきていたのですが、"トランプ現象"の2017年の頃から世界は、調和よりも分断を志向し始め、そして2022年2月24日からのロシア軍のウクライナ侵攻、そして今現在のイスラエルガザ地区ラファの地上作戦(パレスチナ人掃討作戦)問題と、事態は悪化する一方です。

 大きなことを言うようですが、人類は一体今何を見失ってしまっているのでせうか?

 人の意見や見方がそれぞれの立場で異なるのは当然のことで、だからこそ、人は互いを尊重し、意見調整を行っていかねばならないということが、人権尊重やコンプライアンスの基本にあるかと思うのです。

 しかし、現実的には、今、大国の指導者たちが自国の都合を一方的に主張し合う、品性の無い時代に突入しています。

 なぜなんでせう?

 

 「豚の福祉」という人の意識変化について思いを巡らしたら、やっぱ最近の状況について看過できず、つい話が大ごとになってしまいました。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・追記2024/3/25・・・・・・・・・・・・・・・・

 Wikipedia 他に1960年代からの「動物福祉」についての解説が多々揚がっておりました。

 日本でも、それ以前からの動物愛護の運動が連綿とあって、1970年代に"動物愛護法"が制定され、改正も行われて来ていますが、それは今に至るまでザックリ言ってペットや人間に近い動物たちを対象としたもので、家畜は範疇外のようです。

 「動物福祉」"アニマル・ウェルフェア"は、家畜を範疇に含めて語り、「動物愛護法」とは前提が違っているようです。

 

《 20世紀後半まで動物福祉は普及していなかったが[11]、1964年に工場型の集約畜産の批判本「アニマルマシーン」(ルース・ハリソン英語版著)が発表されたことから大きく発展することとなった[12]。「アニマルマシ―ン」により、家畜の扱いに社会の関心が集まり、イギリスにおいて専門委員会が立ち上げられ家畜の調査・検討が行われた。その結果、集約畜産に虐待の可能性がはらんでいることが、調査報告書(1965年)で指摘された。この時の調査報告書(ブランベル・レポ―ト)が、その後のアニマルウェルフェアの礎となり、ヨーロッパ全体に広がり、「農用動物の保護に関する協約(1976年)」「と畜場での家畜の保護に関する協約(1979年)」などの成立につながった。続いて1979年、イギリス政府によって設立された独立機関である家畜福祉委員会(farm animal welfare council:FAWC)が実例の項に詳述する「5つの自由」を提案し[13]、その後、この基本原則が世界の共通認識となり、2002年の国際獣疫事務局 (OIE:改称WOAH) 総会においてアニマルウェルフェアに関する専門家会合が開かれ「アニマルウェルフェアは動物の健康と密接な関係にあり、その検討の場としてOIEが最適である」と提案され、その基準の検討が行われることが決議された。以降、OIEは、と殺や輸送、畜種ごとのアニマルウェルフェアなど様々な基準を策定している[14][15]

 日本では、1987年に初めて佐藤衆介 農学博士が畜産動物福祉を紹介した[14] 》     Wikipedia から引用)

 

 そして、2010年代、2020年代、そしてここ数年のこの気運の深まり、高まりが Wikiに記されていますが、テレビをよく見て来なかったせいか、新聞の定期購読を止めた(2021)せいか、日本のマスコミがあまり取り上げたがらないからなのか? まったく、気づいておりませんでした。

 2010年代、2020年代といえば最近の事象と言えるのかもしれませんが、このうねりの厚みについては全く理解しておりませんでした。

 ですから、上述の「豚の福祉」への捉え方などには、そういう動きに気づいていなかった人間の表現が多々ありますが、そういう人間がこの問題に接した時に先ず抱く感懐の記録として、そのままにさせて頂きます。 ♪ あの時僕はこう思ってたんだ ♪ の記録です。